裁判の管轄について
Q. 私の会社A社はB社に木材(300万円)を売りましたが、代金が一切支払われていません。裁判で代金全額の支払いを求めたいのですが、どこの裁判所に裁判を起こせば良いのでしょうか?ちなみに、A社は東京、B社は大阪に本社があります。
A. 裁判に必要な書類を準備して・・・ん、どこの裁判所に裁判を起こせば良いんだろう・・・?
弁護士をしていると、慣れてくるので、こういう事態も少なくはなりますが、時に疑問を感じる事件にぶち当たることもあります。裁判の管轄の問題ですね。
今日は、どこの裁判所に裁判を起こせば良いのか、民事訴訟の管轄についてご説明したいと思います。(話が複雑になるのを防ぐため、家事事件や人事事件、行政事件、刑事事件等については今回は除いてご説明します。)
「管轄」といわれるものには何種類かあるのですが、メインとなるのは以下の1~3の3つです。
1 職分管轄
その事件の種類や手続によって振り分けられる管轄のことです。
たとえば、日本には、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所という5種類の裁判所がありますが、民事訴訟の第一審は、原則として地方裁判所か簡易裁判所で行うといった形での管轄です。
2 事物管轄
先程ご説明したとおり、民事訴訟の第一審は原則として地方裁判所か簡易裁判所で行われますが、そのいずれで行うのかを決めるのが事物管轄です。
訴訟物の価額が140万円以下なら簡易裁判所、それを超えると地方裁判所の管轄とされています。
問題は、この「訴訟物の価額」とは何かということですが、極めて簡単に言うと、訴えで主張する利益のことです。
たとえば、今回のQでは、請求する木材の代金の価額(300万円)ということになります。
(※「訴訟物の価額」の計算は、実際にはかなり複雑で、弁護士でも各種書籍を調べないと分からないことが多々あります。今回はこの辺りの複雑さは捨象して、極めて簡単にご説明しています。)
こういった財産権上の請求以外の請求や、価額の算定が困難なものは、訴訟物の価額は160万円とみなされ、地方裁判所の管轄となります。
なお、不動産に関する訴訟については、訴訟物の価額が140万円以下でも、地方裁判所にも管轄があります。
3 土地管轄
事物管轄まで決まったとして、さらに、どの地域の裁判所で審理するかを決めるのが土地管轄です。東京なのか、大阪なのか・・・といった話です。
まず、⑴被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所には、原則として、全ての事件で管轄が認められます。
普通裁判籍とは、自然人の場合、原則として住所を指し、法人などの場合、原則として、主たる事務所又は営業所の所在地(本店所在地など)を指します。
その上で、⑵さらに、事件の種類などによって認められる管轄があります。
この管轄は種類が多いですので、詳しくは民事訴訟法第5条をご参照頂ければと思います。以下に、主なものをいくつか紹介します。
【例】 ①財産権上の訴え→義務履行地 *たとえば、金銭の支払の場合、金銭の支払を行うべき場所(=義務履行地)の裁判所に管轄が認められます。
②事務所又は営業所を有する者に対する訴えで、その事務所又は営業所における業務に関するもの→当該事務所又は営業所の所在地
③不法行為に関する訴え→不法行為地
④不動産に関する訴え→不動産所在地 *建物の明渡請求などがこれに当たります。
⑤相続権・遺留分に関する訴え等→相続開始時の被相続人の普通裁判籍の所在地 |
以上の1~3の3つが管轄の主な考え方ですが、これに加えて確認すべき管轄として、以下の3つがあります。
4 専属管轄
裁判の種類によって法律が特別に定めた管轄で、これに該当すると他の裁判所には管轄が認められません。
提起しようとする裁判が専属管轄の対象になっていないかは、あらかじめ確認する必要があります。
5 合意管轄
当事者間で合意があれば、第一審に限り、法律で定められた管轄と異なる管轄に提訴できる制度です(書面等での合意であることが必要)。
契約書等がある場合、最後の方の条項に、この合意管轄条項があることが多いため、確認が必要です。
6 応訴管轄
法律で管轄が認められていない裁判所に提訴された場合でも、被告側が応訴すれば、当該裁判所に管轄が生じること。
以上6つの管轄を検討して、どこに裁判を起こすか決定することになります。
今回のQについて検討してみましょう。
まず、訴訟物の価額は300万円ですので地方裁判所の管轄となります。
その上で土地管轄ですが、まずは、5の合意管轄について確認する必要があります。
合意管轄がない場合、どのように考えるかですが、被告であるB社の本社所在地は大阪ですので、3⑴によって、大阪地方裁判所に管轄が認められます。
また、本件のような金銭支払債務の場合、支払は、債権者の現在の住所で行うのが民法の原則です(当事者間で別段の定めがある場合等例外はあり得ます。)。したがって、3⑵①の「義務履行地」は債権者の住所地ということになり、A社の本社所在地を管轄する東京地方裁判所にも管轄が認められることとなります。
その他、事例からは明らかでありませんが、3⑵②の管轄も検討する必要があるでしょう。
なお、2つ以上の裁判所に管轄が認められる場合は、原告にとって有利な場所(近い場所など)で裁判を起こすことが多いです。